近年、「エクソソーム」と呼ばれる細胞外小胞に注目が集まっています。「エクソソーム」自体の発見は今から30年ほど前にさかのぼりますが、発見当初は細胞の不要物的な存在としか認知されず、その機能や存在意義などは長い間、不明でした。ところが、2008年にエクソソーム内にmRNAやmiRNAを含む核酸物質が内包されて他の細胞へと受け渡されている可能性が示されるや否や、ここ数年の間に関連研究が一気に加速し、今日に至っています。 細胞が分泌する小胞、エクソソームがmiRNAやmRNA分子、ゲノム断片、転写調節因子、代謝産物など多種の分子を内包して、細胞間あるいは個体間のコミュニケーションに関与していることが最近次々と明らかになってきました。

エクソソーム産生のしくみ

エクソソームは、エンドサイトーシス(細胞が細胞外の物質を取り込むしくみ)により細胞内にできたエンドソームが陥入することで作られた膜小胞が、細胞外に放出されることによって産生されます。エクソソームの内部には元の細胞の物質が含まれ、表面にはテトラスパニン類(CD9、CD63、CD81など)やインテグリン類などの膜タンパク質、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子が、また内部には多胞体形成に関連するタンパク質(Tsg101、Alix)、熱ショックタンパク質(HSP)が多く存在しています。

エクソソームは体の中のメッセンジャー

弊社の科学アドバイザー、東京医科大学の落谷孝広教授が近著で下記のように著しています。

細胞が放出する“小さなカプセル”が、コミュニケーションツールである、とはどういうことでしょう。それは、こんなしくみです。エクソソームは、細胞から放出され、血液の流れにのって、全身を巡ります。放出するときに、細胞はこのカプセルのなかに、“メッセージが書かれたカード”を入れて送り出 します。エクソソームには、このメッセージの宛先が指定されていて、相手はこのメッセージを受け取ることができる。概要を説明すると、こんな感じです。もう少し詳しい医学的な説明は後ほどすることに します。 メッセージが書かれたカード”の中身には、マイクロRNAという物質があります。このマイクロRNAは、相手の遺伝子にはたらきかけて、さまざまな行動を起こさせます。たとえば、 「代謝を促進せよ」 「血管をつくれ」 というようなことです。このマイクロRNAを使って、細胞は、離れた場所にある別の細胞に、こちらの意志を伝え、さまざまな仕事をしてもらっている、というのが、エクソソームによる細胞どうし のコミュニケーションのイメージです。

こうしたコミュニケーションは、さまざまな細胞間でおこなわれます。たとえば、肝臓の細胞から脳の細胞へ、 あるいは、腎臓の細胞から甲状腺の細胞へ 。 細胞と細胞のコミュニケーションがおこなわれている、ということは、当然のことながら、その細胞が属す る臓器、つまり肝臓と脳、腎臓と甲状腺という臓器間の コミュニケーションが、エクソソームを使っておこなわ れているということでもあります。

私たちが、普段健康に生活できているのは、それぞれ の臓器が互いに連携して、よりよい状態を保っているか らです。たとえば、食べ物をたくさん食べすぎると、体 は自然と代謝を高めてこれを消費しようとします。 これまでの常識では、こうしたコミュニケーションは すべて脳を介しておこなわれていると考えられていまし た。体のどこからか脳に信号がいき、脳がまたどこかに指令を出す。もちろん、それはそのとおりです。しかし、エクソソームの研究を通して、 どうもそれだけではないということがわかってきました。
私たちの体が正常に機能し、健康な状態を保つために、組胞どうしが直接コミュニケーションをとりながら、それぞれの臓器を適切に動かしている。そのような仕組みが、生命活動を円滑にするためにはたらいている、ということがわかってきたのです。(落谷孝広著「がん」は止められるより)